小松左京のアダムの裔~1973年の草食男子w SF作家が若き日に残した幻のポルノ小説

小松左京の「アダムの裔」(アダムのすえ)を読みました。

1973年の4月に新潮文庫から刊行されている官能文学ですが、現在は絶版です。

星新一と筒井康隆と並んで「日本SF界の御三家」として称えられている巨匠・小松左京が 若き日に残した異色な味わいがありますので、何とか復刊して頂きたいものだと個人的には思ったりします。

過激な性描写ばかりではなく、本作品が発表された当時の風俗や世相を伺い知ることが出来る 貴重な作品になっています。

ネタバレなしでストーリーを紹介すると、ざっとこんな感じ。
 
 
売れないSF作家として燻っていた「ぼく」は、近頃では編集者から盛んに「エロを書け」とせっつかれていました。

セックスには興味津々ながらも 実際の体験の方はまるっきり乏しい主人公は、執筆活動にすっかり行き詰まってしまいます。

原稿用紙は真っ白で 出版社からの催促の電話がなりやまない中で、思い余ってエリ子に電話をしました。

友人以上恋人未満な彼女に相談を持ちかけると、夜遅くに自宅のマンションの一室へと誘われます。

高級酒ナポレオンをしこたま飲み干し その気になったエリ子は、先にシャワーを浴びにいきました。

ベッドルームで悶々としながら待っていた主人公は、突如として甲高いエリ子の悲鳴を聞きつけて浴槽の中へと突入します。

そこで見たものはバスタブの中の全裸のエリ子を烈しく攻め立てていた、自らの意思を持って行動する極太のバイブレータでした。

物語の舞台になっているのは1970年代前後になり、まだインターネットはおろかアダルトビデオさえ誕生していなかった時代が懐かしく思い浮かんできました。

若い世代の性的な欲望を満たすものは、あくまでも映像メディアではなく活字だったことには 感慨深いものがあります。

すぐに潰れてしまうので「カストリ雑誌」とネーミングされた、弱小出版社の切実な現状も垣間見ることが出来ました。

後に純文学に転向し文学賞に輝いて学校の教科書にも掲載されるほどになった大作家が、人知れずポルノ小説を書いていたという逸話にもまた驚かさます。

主人公の草食系男子気味な小説家と、肉食系女子丸出しなエリ子との噛み合わない会話がユーモアセンスたっぷりです。

小説を書くためだけに深夜の女性の自宅へと勇ましく乗り込みながらも、いざというときにはモジモジしてしまう主人公が何ともじれったいです。

ピンクの透け透けネグリジェにノーブラな彼女を目の前にして ようやく始まるかと思われながらも、予想外なチン入者に邪魔をされてしまうシーンには笑わされました。

エリ子のマンションの隣人が、揃いも揃って奇人変人なところも面白かったです。

カタツムリの生殖行為をテーマに論文を執筆する学者まで乱入してきます。

雌雄同体のカタツムリが鞭のようなペニスをお互いの膣の奥に挿入して、膣内から飛び出した針が相手の生殖器を刺激して射精へと導く様子を 大真面目に研究している馬鹿馬鹿しさにも不思議な愛着が湧いていきます。

この神秘的な交尾を目撃した主人公が「おれはカタツムリと結婚する!」と宣言してしまう場面も印象的でした。
  
 
 

以下小説のネタバレがあります

裸のエリ子を襲撃した自立型バイブレータの正体は、タイムスリップでやって来た未来人だったというオチが最高でした。

タイトルの「アダムの裔」とは、ペニスに脳だけを残して進化(退化?)した人間の男性を意味するもので 何とも皮肉です。

エッチな妄想で頭でっかちになってしまう男の愚かさは、いつの時代にも同じなのかもしれません(笑)

官能小説が好きな方だけでなく、SFファンの皆さんにもお勧めな1冊です。